嘉奏子の望み

少し前から嘉奏子が時々口にすることがあります。
「嘉奏子ね、バイオリン習いたいの」「嘉奏子バレエやりたい」
私は母親がピアノの先生だったこともあって、小さいころからピアノを仕込まれ、自分の限界を感じた母親は、他の先生を呼んで、私はその先生について教えて頂いていたこともあります。
母親は何頭かの才能を私に見出していたようですが、母親がスパルタだったこともあって、ピアノを楽しいと思ったことはありませんでした。
私が小学校4年生の時に妹がバレエを習いたいというので、私も一緒に行くようになりました。
バレエは楽しくて、今思い起こせば当時は、自営業のお宅のお嬢様みたいな人ばかりが集まって、バレエを習っていました。
バレエのレッスンは楽しいのですが、役が付いて踊ったりする舞台となると、1役10万円でしたから、2役も出たりすると、それはもう綺麗な衣装で美しいのだけど、親は大変です。ストッキングすら1足2千円もするような習い事です。
それを知っているだけに、習うのは良いけど、発表会に出なきゃならないからなぁ〜と二の足を踏みます。
バイオリンに至っては、何が面白いのか?解りません。直ぐに辞めようものなら、楽器がもったいないではないか。
バイオリンを続けるためのモチベーションを私は持っていないので、励ますこともできないし。
そう思っているのですが、遂に昨日言われました。
「何でお兄ちゃんは習い事させてもらってるのに、嘉奏子は何も習わせてもらえないの!」と
すかさず俊は「嘉奏子は英語習ってるやん」と突っ込みしましたが、私は嘉奏子の気持ちが良く解るなのに返す言葉が無かったです。
親が子供の才能を広げるも色々と大きく左右するなあ。ため息でした。
電車で私が隣に座った、かなり気持ち悪い系のおじさんは、膝にPCを出して、何やらテスト問題を作っているようでした。
たまたま携帯のやりとりが見えたのですが、ギョッとしました。相手は女の子の学生みたいです。でも登録された名前は、それとは解らないような宛先に変えていました。
「この前のテスト合格にしといたよ。ところでいつお客様は帰るのかな?今度会うのを楽しみにしてるんだけど。この前の凄く気持ちよかったよ…」
ニヤニヤと汗を拭きながらメールを打つ気色悪い表情から、もっと気色悪い事を想像しちゃいました。まあそういう内容のメールのやりとりをしていた訳で、PCの問題用紙の内容から、どこぞの音楽関係の大学の教員だと思われました。
ああ”気持ち悪い。もし娘がそんな大人の餌食になったら、そういえば母親が言っていました。
音大に入ったけど、ピアノではなく声音の学科を卒業した理由が、ピアノで食べて行こうと思ったら、実力だけじゃなくて、教授に体を売って媚びたりしているのを見て嫌になったと。
そういう世界なのかもしれないなと思ったけど、実際に横に座った親父がしていることを目の当たりにしてしまって、何ともやりきれない思いになったのです。
そんなこんなで、ヴァイオリンを習わせるのは…;気乗りがしないのです。何だかなぁ…秋の空。ゴメンね嘉奏子。